経済学部長ご挨拶

変化する社会を認識し評価する知性を磨く

慶應義塾大学経済学部における教育は、精緻な知的訓練と広範な論議を通じて、つねに変化する現実の経済社会を認識し評価する知性を磨くこと、を主要な目的としています。

現実社会のさまざまな問題や課題の多くは、その根底に経済の問題があります。経済学を体系的に理解しその分析手法を習得することにより、それらの事柄について自分なりの判断の基準をもつことができるはずです。単にすぐに役に立つ知識を得るというよりも、考え方の基礎を学ぶことが大切なのです。さらに経済学の論理体系は国際的に共通なものが多く、それを身に付けることにより活躍の場が大きく世界に広がります。また、大学は狭義の学問の場だけでなく、幅広い人間形成の場でもあると考えていますので、社会貢献活動やスポーツをはじめとするさまざまな面における学生の主体的な機会が与えられています。それをどう活かしてゆくかは一人一人の意識にかかっています。

慶應義塾の創設者福澤諭吉の『福翁自伝』を読むと、大阪の「適塾」で、優れた仲間に囲まれ、互いに切磋琢磨しながら、一心不乱に学問に打ち込む姿が描かれています。厳しい勉学の合間には塾生同士の楽しい交流もあったようです。これがまさに教育の原点ではないでしょうか。また、上野で戦争が起こり、江戸市中が大混乱しているときに、慶應義塾では福澤先生がいつもと変わらず講義を続けていました。そして「慶應義塾は一日も休業したことはない。この塾のあらん限り大日本は世界の文明国である」といって大いに塾生を励ましました。このときに読まれていたのがウェーランドという人の経済学書だったのです。このように慶應義塾は早くから経済学を重視し、経済学部の前身である理財科を置いて経済学を体系的に教えてきました。慶應義塾で経済学を学んだ人々は、明治以降日本経済の発展に指導的役割を果たすようになり、「慶應の理財、経済の慶應」と呼ばれる黄金時代が築かれたのです。

慶應義塾大学経済学部には、こうした伝統が今も脈々として生きています。積極的な意識をもって学生生活を送れば、かけがえのない充実した時間をもつことができるはずです。そこで磨かれた知性と、教員、同級生、先輩・後輩との人間的な絆は、皆さんの一生の宝となるでしょう。

経済を学ぶためには、現実社会の中で何が解決されるべきかを見出す「温かい心」と、そうして見出された問題を解決する「冷たい頭」のどちらもが必要だといわれています。私たちは、「温かい心」と「冷たい頭」をもち、気概に満ちながらもバランス感覚ある紳士淑女を社会に送り出すことに努力を重ねています。そんな「慶應の経済」で学んでみませんか。