渡辺幸男


個人基本情報
氏名:
渡辺幸男 わたなべゆきお
職位:
教授
研究室:
三田545・内線 23435・E-mail watanabe@econ.keio.ac.jp
略歴:
1948年 川崎市生まれ
1970年3月 慶應義塾大学経済学部卒業
1977年3月 慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程経済学専攻単位取得退学
1977年4月 慶應義塾大学経済学部助手就任
1990年4月〜 慶應義塾大学経済学部教授
1984年12月〜 日本学術振興会産業構造・中小企業第118委員会委員
2004年11月〜 2007年10月 日本中小企業学会 会長
2007年4月〜 日本学術振興会産業構造・中小企業第118委員会委員長
最終取得学位:
博士(経済学・慶應義塾大学)
受賞学術賞:
中小企業研究奨励賞特賞 1999年
所属学会:
日本中小企業学会
日本経済政策学会
経済理論学会
教育活動
担当科目(2007年度)
[通学課程]
(学部)工業経済論、現代資本主義論、研究会、
(大学院)工業経済論、産業論演習、
教育方針:
研究会
 私が研究対象としている中小企業論・工業経済論・日本経済論にかかわる研究に関心を持つ学生を対象にしている。これらの応用経済学の分野について、一方でこれまでのマルクス経済学の方法にしたがった研究を中心に学術的蓄積をきちんと学ぶことを心がけるとともに、生な現実の事象にあたり、自らの認識を深めることを学生に求めている。そのため、研究会では、3年生については、春学期には、本ゼミでは理論的な著作2冊を同時並行的に輪読し、サブゼミでは時事的な著作を数冊、順に輪読している。さらに、理論的な著作の理解を深めるために、輪読と並行して11週にわたり2000字のレポートを毎週提出することを課している。また、三田祭までの半年をかけ、学生が自主的に選択したテーマに基づき3名以上のパートを構成し、企業等への面接調査を組み込んだ共同実態調査研究を行い、それを論文としてまとめることを求めている。秋学期には、輪読と共同実態調査論文の仕上げを行っている。4年生は各自卒業論文の制作に取り組み1年間を過ごしている。
 このように、私の研究会は、平均的な研究会活動から見れば、極めて負担の大きなものである。これは、研究会の諸君に著作を通して考えるだけでなく、それと現実とを対比させながら自分で考え、自分なりの結論をそれなりに出す訓練をして欲しいことによる。このため、私も現在のところ本ゼミ・サブゼミいずれに対しても出席し、同時に学生のレポートの添削を行い、上記のハードな学生の負担が、実のあるものとなることを目指している。その成果の一端は、社会人も応募する商工総合研究所が主催する中小企業懸賞論文での入賞実績としてあらわれている。
工業経済論・現代資本主義論
 マルクス経済学の視角からの応用経済学の一環として、これらの科目を位置づけている。工業経済論では、マルクス経済学の学習を前提に、日本の工業を題材にしながら、工業にかかわる経済現象をどのように把握したらよいかを明らかにすると同時に、現代の日本の工業が抱える大きな問題である、俗に言われる「産業空洞化」論を、どのような構造変化として捉えるべきであるか、その際に国内にある産業集積が持つ大きな意味などのような点にあるかを論じている。
 現代資本主議論では、現代の資本とはどのような存在であるかを、所有構造の特徴と変化という視点から、巨大資本と中小資本とへ共存の意味という視点とから明らかにしている。その上で、国家独占資本主義としての現代資本主義の再生産のあり方特徴を明らかにすべくつとめている。
研究活動
専攻・研究領域:
中小企業論 工業経済論
現在の研究活動
研究課題名:
東アジア化の下での国内産業集積の構造変化と発展展望
途中経過及び今後の計画:
大都市機械工業、特に京浜地域を中心とした産業集積を、1970年代後半から研究課題として追求し始めた。当初は大都市機械工業での社会的分業の研究が主要内容であった。一般的立地条件が極めて悪化した大都市の産業集積が、なにゆえ、存立可能であり、産業集積として発展展望を持ちえているかの解明が課題であった。企業聴取り調査を重ね、それらの地域に立地する企業が、高度に専門化するとともに独自の社会的分業関係を構築することにより、一般的立地条件の悪化の中で、他の地域と異なる存立形態での存立展望を持ちえていることを、結論としてえた。
 このような研究成果を踏まえ、日本国内の産業集積へと研究対象を拡大した。その背景には、1980年後半から急速に進行した、日本の製造業の東アジア化がある。国内完結型であった日本の製造業が、東アジアの地域的社会的分業の一翼を担うことにより、存立展望を持ちえるものとなった。その東アジア化の中で、一般的立地条件が極めて悪い国内産業集積地域が、どのような存立展望を持ちうるか、具体的に各地域の産地型産業集積を取り上げ、聴取り調査を核に解明に努めている。
 これまでに、このような問題意識のもと、新潟県の洋食器産地であった燕の産業集積や、同じ新潟県のニット製品産地の五泉・見附の産業集積、岐阜県や岡山県の布帛製アパレル製品産地、あるいは大阪府堺市の自転車部品産業の産業集積を検討してきた。そこからの中間的結論は、産業集積として激しい構造変化を被っているが、産業集積としての既存の蓄積を再編し生かすことにより、東アジア化の中でも新たな産業集積として発展展望を持ちうる集積もあるということである。いわゆる産業空洞化論の否定である。今後も、このような方向での国内調査を積み重ねることにより、国内産業集積の存立可能性に関するより一般的な議論を展開することを目指している。
研究課題名:
中国天津市および華東地域を中心とした産業発展研究
途中経過及び今後の計画:
上記の国内産業集積研究の対極をなすものとして、現在同時に取り組んでいるのが、東アジア化の中で国内産業集積に最も激しい影響を与えている中国の産業発展の研究である。中国の中でも、最も自立的発展が見られる温州市の産業発展と、天津市および華東地域の自転車産業の発展に注目し、そこでの民営企業を核とした産業発展の論理を解明すべく、現地聴取り調査に取り組んでいる。現地調査を繰り返すことにより、外資に依存した発展とは異なる、中国国内市場向けを中心とした産業発展の、大きな可能性と同時にその限界を、我々なりに把握しつつある。
 中間的結論を言えば、量産的な製品については、中国国内市場を把握した企業のもつ規模の経済性の実現程度から、圧倒的な競争力を中国企業が持つこと、そのことが同時にその存立の限定性を与えること、この2点である。これらの理解を一層深めるべく、現地調査についても、今後とも行っていく予定である。
主要業績:
単著論文 大都市における機械工業零細経営の機能と存立基盤(三田学会雑誌 72巻 2号)
単著論文 城東・城南の機械金属加工業(佐藤芳雄編著『巨大都市の零細工業ー都市型末端産業の構造変化』日本経済評論社, 1981年)
単著論文 英国工業中小企業の動向 − 中小企業政策の意味するもの(三田学会雑誌80巻 3号)
単著論文 温州産業発展試論 ―自立・国内完結型・国内市場向け産業発展、その意味と展望―(三田学会雑誌 96巻4号)
単著論文 もの作りでの中小企業の可能性 -東アジア化の下での国内立地製造業中小企業の存立展望-(商工金融 56巻12号)
単著書 日本機械工業の社会的分業構造 階層構造・産業集積からの下請制把握(有斐閣 1997年)
単著書 大都市圏工業集積の実態 日本機械工業の社会的分業構造 実態分析編1(慶應義塾大学出版会 1998年)
共著書 産地解体からの再生 ―地域産業集積「燕」の新たなる道―((社)中小企業研究センター編 同友館 2001年)
共著書 産地縮小からの反攻 ―新潟県ニットメーカーの多元・多様な挑戦((社)中小企業研究センター編 同友館 2003年)
共著書 巨大都市印刷業の新展開 ―デジタル化の衝撃― ((社)中小企業研究センター編 同友館 2004年)
共著書 21世紀中小企業論〔新版〕 多様性と可能性を探る(小川正博・黒瀬直宏・向山雅夫との共著 有斐閣 2006年)
閲覧者へのメッセージ:
私の研究方法の中核は、現場の当事者から多くを聴取り、それをもとに中小企業や工業について、経済学的視点から現代の課題や問題を解明してくことにある。中小企業研究で、中小企業の経営者や労働者から聴取りを行うことは、それで十分なことではないにしても、不可欠な要素であると考えている。経済学が現実の諸課題に答える学問・研究として意味あるものとして存在するためには、現実をふまえ、現実の動きを論理的に把握することが不可欠である。その1つの方法として聴取り調査は極めて有意義なものである。このように考え、研究を進め、同時に研究会の学生にも、そのような方法を学んでもらうべく、自分たちで設定した課題についてのフィールドワークを義務として課している。