坂本達哉


個人基本情報
氏名:
坂本達哉(さかもとたつや)
職位:
教授
研究室:
saka@econ.keio.ac.jp
略歴:
昭和54(1979)年3月 慶應義塾大学経済学部卒業
昭和56(1981)年3月 慶応義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了
昭和57(1982)年4月 慶応義塾大学経済学部助手
昭和59(1984)年3月 慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学
昭和59(1984)年9月〜61(1986)年8月 日本学術振興会海外特別研究員(英国グラスゴウ大学)
平成1(1989)年4月 慶応義塾大学経済学部助教授
平成8(1996)年4月 慶応義塾大学経済学部教授
最終取得学位:
博士(経済学)・慶應義塾大学(平成8[1996]年)
受賞学術賞:
義塾賞(平成8[1996]年)、サントリー学芸賞(平成8[1996]年)、日本学士院賞(平成13[2001]年)
所属学会:
経済学史学会・幹事歴任
社会思想史学会・幹事歴任
日本イギリス哲学会・理事
日本18世紀学会・幹事
政治思想学会
The Hume Society (Member of the Editorial Board of The Hume Studies)
The Eighteenth Century Scottish Studies Society
教育活動
担当科目(2003年度)
[通学課程]
社会思想史(秋集中)・研究会・自由研究セミナー(秋集中)
[通信教育課程]
社会思想史(夜間スクーリング)
教育方針:
  • 社会思想史関連科目では、欧米を中心とする近代社会思想の展開過程析・評価するとともに、思想家間の議論の継承・批判・断絶などの複雑な歴史的プロセスを、各時代の政治・経済・社会状況との相互作用において解きほぐしていく。全体としては、過去の思想家たちの古典的な議論をふまえ、そこにふくまれた不滅の遺産を継承しながら、現代を生きるひとり一人が、社会と世界の現状を批判的に認識し、人類社会の未来を独創的に構想できるような自由な想像力を身につけられるように配慮している。
  • 研究会などの演習的な科目では、古典文献、重要文献の詳細かつ透徹した読解を基礎とする社会思想の正確で自由な理解・吸収の能力を養うように心がけている。他者との徹底した討論を通じての論理的思考力と修辞的表現力の獲得をとくに重視する。
研究活動
専攻・研究領域:
18世紀を中心とするイギリス社会思想。とくに、ヒュームを中心とするスコットランド啓蒙の社会科学の思想史的考察。
現在の研究活動
研究課題名:
ハチソンとスコットランド啓蒙思想の起源
途中経過及び今後の計画:
ハチソンの全著作の精読を通じて、スコットランド啓蒙の父としてのその意義を確定する。とりわけ、アイルランド時代のハチソンの活動を重視し、ダブリン時代の同時代の思想家たちの議論を英国図書館所蔵の諸文献の調査をつうじて解明する。
研究課題名:
社会思想史通史の執筆
途中経過及び今後の計画:
日本の伝統的な社会思想史研究が「市民社会」論の視点を前提にしてきたことを批判的に認識し、欧米思想史研究の近年の動向をふまえ、かつ、近代リベラリズムをめぐる最近の学問的・思想的・政治的動向をも視野に入れながら、社会思想史の単著を執筆中である。
主要業績:
単著論文
「市民社会から文明社会へ:ロックとヒューム」、高哲男編『自由と秩序の経済思想』(第1章)、名古屋大学出版会、2002年4月。

「スコットランド啓蒙における学問の国と社交の国」、『一橋大学社会科学古典資料センター 年報』、No.22、2002年3月。

“Review Article: S. Sugihara and T. Tanaka eds., Economic Thought and Modernization in Japan “, History of Economic Ideas, VIII/2000/1.

「戦後『市民社会』思想の再検討に向けて」、『神奈川大学評論』、26号、1997年。

「一八世紀文明社会と中流身分のアンビバレンス」、野地洋行編『近代思想のアンビバレンス』(御茶の水書房、1997年)所収。

共著論文
“Anonymous Writings of David Hume,” with David Raphael, Journal of the History of Philosophy, 28-2, pp.271-282,1990.

著書
『ヒュームの文明社会−勤労・知識・自由−』、創文社、1995年。

編著書
The Rise of Political Economy in the Scottish Enlightenment, edited with Hideo Tanaka, Routledge, 2003.

その他
「同情・同感・共感sympathy」、『哲学・思想翻訳語事典』、論創社、2003年、所収。

『アダム・スミスを語る』(座談会参加)、ミネルヴァ書房、1993年。

閲覧者へのメッセージ:
私は社会思想史を研究している。社会思想史とは、経済学を中心とする社会科学を生み出してきた思想の諸体系を、その歴史的背景と理論的内容との絡み合いに焦点をおいて探求する学問である。
第1に、スミス、マルクス、ケインズといった偉大な経済学者たちはみな偉大な思想家でもあった。思想という土台なくして社会科学としての経済学は成り立たない。経済学が前提する社会は明確な歴史的本質をもつ近代社会であり、それを生み出した人間たちである。こうした生きた人間たちが自己と社会と歴史を認識し、人類の将来を展望しようとした帰結が経済学学である。こうした人間と社会と歴史の学としての経済学の土台をささえる思想をそれ自体として究明するのが社会思想史である。
第2に、社会思想史は学際的である。今では経済学者とは見なされていないホッブズ、ロック、ルソーからウェーバー、ハバーマス、ロールズ、その他多くの近・現代の思想家たちの議論も、その深いところで経済学と関連をもっていることを、社会思想の研究は教えてくれる。経済学が政治学・法学・歴史学といった社会諸科学はもちろのこと、哲学・倫理学・文学などの人文諸科学とも深く広い関連をもっていることが、社会思想を学ぶことによって初めて見えてくるのである。
第3に、社会思想史は現代的である。現代社会が直面する深刻な諸問題はどれも従来の伝統的な科学のいずれか一つだけでは解決できない。とりわけ、社会主義体制崩壊後の社会は、既製のいかなる学問体系によっても説明しきれない多様かつ深刻な問題群を生み出している。社会思想史の研究はこうした人類社会の将来を根本から考え直すための総合的探求のための思想と論理を提供してくれるであろう。
私自身は長年にわたり、イギリス18世紀を代表する思想家の一人であり、経済学の父アダム・スミスの親友でもあったるデヴィッド・ヒューム(David Hume,1711-76)と、彼を生み出したスコットランド啓蒙思想全般の研究に従事している。その成果の一端は『ヒュームの文明社会』(創文社、1995年)にある。思想史研究の国際化・グローバル化の波に翻弄されながら、つねに国際的な水準の研究活動を心がけている。
大学時代の4年間は、現実の利害関係から自由に、自分の好きなことを考え、追求し、実行することのできる長い人生でもただ一回の4年間である。この時代をどのように過ごすかで諸君の人生の基本線が決定される。私の切なる希望は、諸君が自らの選択と行動によって自分自身の人生を切り開き、作り上げていく方法を身につけてくれることであり、学問とりわけ経済学という学問はその有力な手段を提供するであろう。「人はパンのみにて生きるにあらず」。諸君がこの言葉の本当の意味を学問を通じてつかみとることを手助けできれば、教師としてこれに勝る喜びはない。