柳澤 遊


個人基本情報
氏名:
柳澤 遊 [やなぎさわ あそぶ]
職位:
教授
研究室:
研究棟516室、直通電話03-5427-1292、Eメール asobu@econ.keio.ac.jp
略歴:
1951年 東京都荒川区日暮里生まれ
1976年 東京大学経済学部卒業
1982年 東京大学大学院経済学研究科博士課程
1983年 久留米大学商学部専任講師(経済史)
1986年 東京農工大学工学部(一般教育部)助教授(経済学)
1994年 慶應義塾大学経済学部助教授
1998年 慶應義塾大学経済学部教授
最終取得学位:
1978年 東京大学大学院経済学研究科で修士号(経済史・理論経済学)取得
受賞学術賞:
1999年 慶応義塾賞(『日本人の植民地経験−大連日本人商工業者の歴史』に対して)
2000年 平成11年度中小企業研究奨励賞・本賞(同上書に対して)
1997年 平成8年度中小企業研究奨励賞・本賞(『近代日本における企業家の諸系譜』)
所属学会:
社会経済史学会・会員
政治経済学・経済史学会(旧土地制度史学会)研究委員会副委員長
日本中小企業学会・会員
経営史学会・会員
歴史学研究会(現代史部会運営委員)
同時代史学会・理事
教育活動
担当科目(2007年度)
[通学課程]
近代日本と東アジア
研究会(3年,4年),経済史II,自由研究セミナー
[通信教育課程]
一般経済史,日本経済史
教育方針:
私の学生教育では,根源的な疑問を定立すること,徹底的な資料調査をすること,調査研究を基礎とした討論で社会科学上の諸問題に対して多面的・重層的な思考ができるようになること,時には教員の発想を批判的に乗りこえうるようなクリティークができること,を重視している。ただし,既成の経済史学をのりこえるのには,理論・実証両面の努力と準備が必要である。
近代日本と東アジア
20世紀前半の日本と東アジア諸地域との社会的経済的関連を、企業進出・商工移民・戦争の影響などに焦点をあてて講述する。
研究会(3年,4年)
ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』上巻・岩波書店,大門正克ほか『戦後経験を生きる』吉川弘文館,などを輪読していくなかで,第2次大戦をはさんだ日本社会をさまざまな側面から考察していきたい。また,研究会メンバーの卒業論文テーマ策定にむけて必要なアドバイスを行う。他ゼミ(法政大・横国大)と交流を行なう。卒業論文執筆の困難さと楽しさとを同時に体感してもらう。
自由研究セミナー
レジュメの作成の仕方,研究発表,討論,輪読の面白さを学べるようにしたい。テキストをさまざまな角度から解読すること,教員の発言をも批判的に受け止められる力と感性を養成していく。
研究活動
専攻・研究領域:
  1. 近代日本移民史研究(在華居留民経済・社会史研究)
  2. 近現代日本中小商工業史研究
現在の研究活動
研究課題名:
1920〜40年代満鉄史研究・在満経済団体史研究
途中経過及び今後の計画:
 2002年4月に,共同研究『満鉄労働史の研究』(日本経済評論社)を刊行することができた。ひきつづき、『満鉄の調査の「神話」と現実』(青木書店)の刊行に向け、最終的な調整を行っている。
 また,岡部牧夫・井村哲郎・柳沢遊編著『満鉄史の研究』(日本経済評論社)の分担研究を完成させる。
研究課題名:
近現代日本中小商工業史研究
途中経過及び今後の計画:
 第2次世界大戦後の商店・商店街の復興過程を分析した「戦後復興期の中小商業者」(原朗編『復興期の日本経済』東京大学出版会,2002年)を刊行し,川口市の主要産業・鋳物工業経営者と徒弟制についての実証研究をまとめた(大石嘉一郎・金澤史男編著『近代日本都市史研究』日本経済評論社,2003年)。現在、「1950年代の卸・小売商業者」という論文を執筆中である。
 ひきつづき,中国大連市,青島市,日本国川口市,東京下町の中小商工業者に関する資料収集をすすめ,上記テーマの実証的深化をめざす。また,1930年代後半〜40年代の日本流通業の動態を,企業整備・問屋復活・商店街を中心に調査・研究し,石井寛治編『近代日本流通史』の担当章を執筆した。
 新たに結成した「高度成長期研究会」での分担テーマ「1950〜60年代の商業者・町工場」を執筆すべく,各地・各商店の資料収集を行っている。
主要業績:
[著書]
  • 『日本人の植民地経験−大連日本人商工業者の歴史−』青木書店,1999年
[単著論文]
  • 「1920年代『満州』における日本人中小商人の動向」(土地制度史学会『土地制度史学』92号,1981年7月,P.1〜P.18)
  • 「在『満州』日本人商工業者の衰退過程−1921年大連商業会議所会員分析−」(慶応義塾経済学会『三田学会雑誌』92巻1号,1999年4月,P.47〜P.80)
  • 「青島日本人居留民団における低利資金問題の展開」(日本植民地研究会『日本植民地研究』13号,2001年,P.1〜P.18)
[編著書]
  • 柳沢遊編『貝原収蔵日記−在華日本人実業家の社会史−』柏書房,1993年
  • 柳沢遊・岡部牧夫編『帝国主義と植民地<展望日本歴史[20]>』東京堂出版,2001年
  • 柳沢遊・木村健二編著『戦時下アジアの日本経済団体』日本経済評論社,2004年
[共著論文]
  • 竹内常善・安部武司・沢井実編『近代日本における企業家の諸系譜』大阪大学出版会,1996年(第6章「榊谷仙次郎−『満州』土木請負業者の世代交代−」P.238〜P.276を分担執筆)
  • 松村高夫・解学詩・江田憲治編著『満鉄労働史の研究』日本経済評論社,2002年,(第6章「大連埠頭」P.250〜284を分担執筆)
  • 大石嘉一郎・金澤史男編著『近代日本都市史研究』日本経済評論社,2003年(第5章第1節「新興工業都市川口の社会経済的基盤」P.581〜P.619を分担執筆)
  • 大日方純夫ほか『近代日本の戦争をどう見るか』大月書店,2004年 (第4章「日本経済と戦争−満州事変期を中心として−」P.183〜P.229を分担執筆)
  • 原朗・山崎志郎編著『戦時日本の経済再編成』日本経済評論社,2006年(第9章 「東京における中小商業企業整備」P.265〜P.292を分担執筆)
閲覧者へのメッセージ:
  東京のはずれ,荒川区の日暮里で20代後半まで生活した私のまわりには,零細な町工場や小さな卸・小売商店がたち並んでいた。中学時代の友人達は,家庭の事情などで高校への進学を断念し,家業を継承した。進学した私は,都立上野高校3年秋に全学年過半数のクラスをまきこんだ高校紛争に直面し,毎日「何のために大学に行くのか」「ホームルームの存立根拠は?」といったクラス討論に3ヶ月間あけくれた。
  私の経済史研究は,10代の私の生活地域環境,高校紛争時にクラスメートが泣きながらつきつけた根源的な「問い」をスタートラインとして,近・現代の日本を「社会を生きた中・下層の人々」の視点から再構成し,大企業やエリート中心の歴史学を相対化することをめざしている。日本経済史研究でも,大学会の流行のテーマを追いかけることをせず,もっぱら植民地都市(大連・青島など)に進出した日本人中小商工業者や日本国内の零細企業に焦点をあてた実証分析にとりくんできた。
  1980年代後半には,上記の研究に加えて,百貨店史(セゾングループ),商店街史,通商産業政策史(戦後中小企業),東亜煙草(株)社員のライフヒストリー,商工中金の歴史,などにも視野を広げ,研究を行った。1994年度慶應義塾大学経済学部に赴任した後には,学内・他大学研究者と満鉄史プロジェクトを編成し,その研究成果は,松村高夫ほか編『満鉄労働史の研究』(日本経済評論社)として刊行され、『満鉄調査の「神話」と現実』も刊行される見通しである。 また東アジア諸都市に結成された日本人商工会議所の比較分析をすすめ,波形昭一編『近代アジアの日本人経済団体』(同文館),柳沢遊・木村健二編『戦時下アジアの日本経済団体』(日本経済評論社,2004年)として刊行された。最近では,第2次大戦後日本の商店街復興を明らかにした論文を原朗編『復興期の日本経済』(東京大学出版会)に,そして,埼玉県川口市の鋳物業者の動向分析を,大石嘉一郎他編『近代日本都市史研究』(日本経済評論社)にそれぞれ掲載した。ひきつづき、1950年代に苦闘した中小商業者の営業・生活を調べ、原朗編『高度成長期の日本経済』(2008年刊行予定)にも研究成果を収録できるよう、努力している。
  狭義の経済現象にとどまらず人々の生活・労働・消費する場としての地域社会の変化に留意し,中小商工業者・職人・労働者・無職者の生きた姿をライフコース,移動,家族や社会的諸関係に視点をおいて多面的に考察していくところに,私なりの社会経済史の方法的特徴がある。こうした視点を授けてくれたのは,10代〜20代に私と出会い,かかわりをもった,同世代の友人達と先輩達と指導にあたった経済史研究者である。1980年代後半以降日本の歴史研究者の視界と問題意識から失われていったいくつかの論点を,今後も地道にねばりづよく追求していきたいと考えている。